ノンフィクション / ドキュメンタリーの見方は案外難しい

■フィクションとノンフィクション

●『ど根性ガエルの娘』を読んで、「家族の問題」を作品にすることの難しさを思う。 - いつか電池がきれるまで

 学生時代は、ハリウッドの量産型アクション映画をみて、「なんでこんなどれもこれも一緒にみえるエンターテインメント映画ばっかりつくられ、観られているのだろう? もっと人生の深みや陰を描いた重厚な作品がヒットすべきではないのか?」なんて思っていたんですよね。

 難病で死に向かっていくことや家族の複雑な問題というのは、「そのへんに煩わしいほど転がっているもの」であり、そんなものをわざわざ映画館で観て、暗い気分をフラッシュバックさせたくない、どうせだったら、映画館の、フィクションの中でくらい、日常ではありえない、ハッピーエンドの「冒険」に浸っていたい。


フィクションやSF大作は楽しい。
楽しいけど、お金がかかっているだけに一定のフォーマットに沿って作られている部分があり、大筋では似通った作品が多くなるのは否めない。

また、こうした作品は作り物だけに、設定におかしい部分が見つかることもある。
筆者の場合は理屈に合わなかったり齟齬があると、そのことばかりが気になってそのあとのストーリーが楽しめないということがある。
漫画やアニメ、ゲームの世界のように何から何まで作り物ならば「そういう世界なのね」と受け入れるだけだ。だけど実写作品だと、現実との距離が縮まっているぶん、矛盾点がより一層気になってしまう。

一方でノンフィクションの作品は事実を基にしている。「こういう話があったんですよ」ということは事実なので、受け入れるしかない。
その点はフィクションやSFに比べ、脚本や演出の齟齬に気を取られることなく浸れる。だから自分はノンフィクションやドキュメンタリー作品を好むのだと思う。


■制作現場の内情

ノンフィクションの話は、明るく楽しいものばかりではない。辛く落ち込むような内容も多い。
ノンフィクションは人気がないというか、数字の取れないことが多いそうだ。そうなると、制作費のほうもそれに準じたものになる。

●1000万=“極めて安い”制作費!? | 番組構成師 [ izumatsu ] の部屋 - 楽天ブログ

数年前、東京でフリーとして仕事をしているプロデューサーと
話す機会があった。
当時、ぼくは30分のドキュメンタリー番組に携わることがちょくちょくあった。

--その製作費、どのくらいだと思います?

そう、ぼくはたずねた。
そのプロデューサーはアタマをひねったあげく、
思い切って値切るかのように、

--1千万くらいだろ?

このときも、アタマにきた。
そのドキュメンタリー番組も、80万、90万の制作費で作られていた。

このプロデューサーも、朝日の記者氏も、感覚がマヒしているとしか思えない。
考え方が、ふた桁、違うのだ。


80万、90万の制作費とは、素人目にも安いと感じてしまう。
リンク先の著者は続けて取材にかかる日数についても述べている。

朝日の「サブch」なる記事では、
「ザ・ノンフィクション」という番組をこう讃えている。

--取材対象と人間関係をきっちりつくるまでは、
--何ヶ月かかってもカメラを回さない。

当たり前である。
そんなこと、制作する者にとって、基本であり、常識である。

--取材は短いもので数ヶ月、長いものは一年かかる。 どんなドキュメンタリーでも数ヶ月はかかる。これまた当たり前。 今、ぼくが携わっている番組は、取材を始めてから2年以上経っている。 その集大成が、ようやく今月末、1時間番組にまとまる。


短いものでも数ヶ月。それで90万の取材費。取材先への滞在費用だけでも大半が飛んでいきそうだ。

コンテンツとして公開する以上、製作者としては多くの人の目に触れて欲しいはずだ。となると、ただの日常を追ったものよりは、何らかのドラマがあってほしい。しかしそれを促したりお膳立てをすればドキュメンタリーではなくなってしまう。
だから現場のスタッフはひたすら待つ。何ヶ月も何年も画が取れるまで待つ。

●フジテレビ系列『ザ・ノンフィクション』プロデューサー 味谷 和哉さん

ドキュメンタリーは時間経過が一つの演出なので、取材にも時間がかかります。

ポンと行ってポンと撮ったものは”情報”です。最初は”情報”でも、重ねれば重ねるほど深みが出て、ドキュメンタリーになっていきます。1回会っただけでは言わないことも2回目、3回目となれば「実はね…」と打ち明けてもらえることがある…だから半年、1年という時間をかけて積み上げていきます。

そして納得したところで、ある程度視聴者にも満足してもらえるかなと思った段階で放送する、というのが僕の方針です。


その場でカメラを回すだけなら「中継」、それをぶつ切りにしておいしいとこだけつまめば「ニュース」。取材者との関係が熟成されるまでじっくりと時間を掛けて発酵させたものが「ノンフィクション / ドキュメンタリー」ということだろうか。

これらは素材とその調理法の違いといえるかもしれない。そのまま食べておいしいければ丸かじりすればいいし、足の早いものは時間をかけていると腐ってしまう。素材によっては、そのままでは食べられないが熟成させると旨味が出てくるものもある。

「皇室の○○様ご成婚」はニュースになるが、「○○村の花子さんが結婚」はニュースにはならない。
だけど、「限界集落と化した○○村の花子さんが結婚、過疎化に悩むこの土地で暮らす彼らの決意を追った」となるとドキュメンタリーとなっていく。

長い間携わってきて、改めて思うドキュメンタリーの魅力と言えば…「よく見れば事実は絶対おもしろい」ということだと思います。

何かが起こった時に、事実を調べていくと、絶対おもしろくて、事実は想像力より創造的。イマジネーションを超えるクリエイティビティがあります。



■ノンフィクションは真実か?

一方で、「ノンフィクション / ドキュメンタリー」に映し出されたものは、事実ではあっても真実とは限らない。カメラの前で起こったということは事実だとしても、物事の本来の姿とはかけ離れている可能性もある。

冒頭のリンク先エントリーでも、テレビ番組の『大家族スペシャル』スタッフの、放送されなかった裏話が披露されている。
引用の引用となってしまうので、ここには引かない。

要約するとこういうことだ。
大家族の番組の一家そろっての晩御飯の場面で長女が自室に閉じこもっている。父親が問いただすと「テレビに出たくないから」と言う。それに激昂した父親は暴力で言うことを聞かせる。血を流しながら部屋から出てきた長女もそろっての晩御飯。何事もなかったかのように団欒の場面が再開される。

この話は極端だとしても、作り手が介在する以上は取捨選択の与奪を握るのは製作者になる。コンテンツとして公開するのだから、起承転結を考えない訳にはいかない。
一方で、取材者のほうでもカメラのない生活とまったく同じ姿でいることは難しいだろう。

筆者はこうしてブログに文章を垂れ流しているが、こんな文でもローカルの自分だけが読むものと、不特定多数に公開することを意識した文章ではやはり違いが出る。その違いにおもしろみを感じてブログを続けているとも言える。
少なくとも筆者自身は他人の目をまったく気にしないでいることはできない、ということがわかる。

取材のカメラが生活に入るということは、カメラを持った人間もいるし、音声マイクなどの他のスタッフがいる場合も多いだろうし、カメラの先には何万人の人の目がある。


冒頭のリンク先には、ドキュメンタリー映画監督の森達也の言葉と共に、編集や演出の功罪についても触れてある。
この点はノンフィクション / ドキュメンタリー作品を観るときだけではなく、ニュースや各種報道の際にも気に留めておきたい。バラエティーやエンターテインメントではなおさらだ。

こんなシーンがあるとする。
「駅のホームで、スーツを着たサラリーマンに金髪の若い男性がつかみ掛かっていた」
サラリーマンにチンピラが暴行を加える場面だ。

しかしこんな事情があるとする。
「サラリーマンは女子大生に痴漢をしていて、金髪の男性がそれを取り押さえたところだった」
目の前で繰り広げられている事実は変わらないが、こちらの見方は変わらないだろうか。

だが、実はこんな裏事情が隠されていたとする。
「女子大生と金髪は知り合いで、痴漢冤罪に持ち込み示談金を取ろうと共謀していた」

このすべての場面を取材できていたとしても、どの部分を切り取るかで視聴者の印象は大きく変わる。
カメラの前で起こったことに嘘はないが、製作者の意図は入り込む。そうした見方は忘れないようにしたい。


ドキュメンタリーは嘘をつく
森 達也
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最近自分がアスペルガー症候群(AS)の特性が強いことがわかりました。

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