アスペルガーが共感する、定型発達にはオススメしない漫画・コミック

2017/02/11 表現の加筆修正。
2017/02/09 誤字脱字、間違い、表現の修正、加筆。


自閉症スペクトラム(ASD)のうち、アスペルガー症候群(AS)の特性が濃い筆者がシンパシーを感じた漫画を選んだ。
そのため、定型発達(発達障害ではない人)には伝わりにくい部分もあるかもしれない。

加えて筆者の特性として、聴覚優位(聴覚言語優位型)の線優位性タイプなので、視覚優位(視覚映像優位型)の色優位性傾向の強い人のことはよくわからない。
これらタイプの違いについては、エントリーの最後の方で簡単に解説した。

作者や登場人物、キャラクターを「発達障害に違いない、ASDだ、ASだ」、と決めつけたいわけではない。
発達障害やASならではの「それわかる、あるある!」という共感が多く含まれる作品、と言えるかもしれない。

一昔前の作品を中心に選んだ。
今回紹介する作品は、まだ「発達障害」という言葉が知れ渡ってなかった頃の時代。そうしたものが変な人、特殊な性格ということで片付けられていた時代のものが多い。


ネタバレがないように可能な限り配慮した。
13000文字強あるエントリーなので、お暇な時にどうぞ。


■宮﨑駿作品

ポストアポカリプス物語(文明壊滅をモチーフとした終末もの、というジャンル)としてロストテクノロジーを描いたSF作品。全体を通して文明社会へのアンチテーゼを強く感じる。

アニメ映画版は何度もテレビ放送されているので、知らない人はいないというくらい有名だ。
だが、アニメ映画版の知名度とは裏腹に、原作漫画のコミックス版を読んだことのある人は、意外なほど少ない。

何度も何度もアニメで見ているので、「わざわざ原作を読まなくてもいい」と思う人が多いのかもしれない。でも、この『風の谷のナウシカ』に関しては、原作漫画のコミックス版を読まないのはもったいないことだ。
なぜなら、原作漫画のコミックス版では、アニメ映画版のずっと先のストーリーまで描かれているからだ。

漫画の2巻の中ほどまでが映画化された部分。
アニメ映画版は、コミックス版全7巻のうちの、たった1巻と半分しかないのだ。

コミックス版では、何度もテレビ放映された有名なアニメ映画版の続編となるストーリーや、ナウシカの内面に、より深く触れるシーンが出てくる。
同じ『風の谷のナウシカ』という題名だが、アニメ映画版とコミックス版には重要な部分に違いがある。これらの改変は、複雑に入り組んだ密度の濃い物語を2時間という枠に収めるためには仕方のないことだったのだろう。

これを読むと、アニメ映画版のずっと先のストーリーまでナウシカの行く末を知ることができる。

王蟲や巨神兵の秘密、アニメ映画版で大ババ様が語った言葉の意味、王室を巡る運命から逃れられないクシャナとクロトワ、旅を続けるユパの見たもの。
これらのキーワードに引っかかるものがあれば、きっと読む価値がある。

未読の人は、WikipediaやAmazonのレビュー、個人ブログなどのネットのネタバレ情報には気をつけて。後悔必至。
冒頭でも書いたけど、この個人ブログのエントリーはネタバレしてないので安心して読み進めてもらっても大丈夫。


宮崎駿は素晴らしい作品を生み出す才能に溢れた人であると同時に、気難しい性格で知られている。
※(「崎」の字は、正しくは「宮﨑駿」表記。やまへんに、立に可。機種依存文字の﨑を避けるために「崎」が用いられる)

宮崎駿の人柄についてのエピソードは様々な媒体で、主に「大変な人だ」という方向で語られている。だが、氏の人となりは、アスペルガー症候群(AS)の気質を持った人間からすると、案外すんなり納得できるものが多い。
そういう意味では、氏の逸話を聞くたびに周りの人は大変だろうと思う。しかし、もし自分が似たような立場だったとすれば、同じように周りを振り回してしまうんだろうなあと考えてしまう。

宮崎駿作品には、裏表のないまっすぐな人物がよく出てくる。それを表現する場合、登場人物が子供だとしたら、歳相応の純真さとして無理なく描くこともできるだろう。
だが、ナウシカのようなそれなりに成長した人物にそのまま当てはめようとすると、浮世離れした人物となってしう。
しかし宮﨑駿は、それをカリスマ性に昇華させ、運命に翻弄される滅びゆく民の末裔として表現している。

ナウシカはカリスマ性があり、不思議と慕われる。だがコミックス版を読み込むと、どこに行っても枠から外れてしまい、落ち着いて身を寄せる場所のない人物、という側面も浮かび上がってくる。

物事は、論理としては正しいことだとしても、人間としての感情を無視したものだと、受け入れられるものではないからだ。

人間の感情とは喜怒哀楽ばかりではない。
ある人にとっては醜い欲望としか思えないことだったとしても、別のある人にとっては、それがとても大切で、生きるために必要なことだったりする。誰もがみな清廉潔白のままでは生きられる訳ではない。

世間や一般常識とぶつからざるを得ない特性、正しいことをしているはずなのに理解してもらえないという歯がゆさ。これはナウシカの意志であると共に、若い宮崎駿自身の意識の表れでもあったのだろうか。
ナウシカの頭のなかには、「こうするべきなんだ」という確固たる彼女なりの考えがあるのだけど、それは人々の常識とはあまりにもかけ離れている。

ナウシカが心から語り合えるのは、誰からも忌み嫌われる腐海の蟲や、動物や、当たり前の社会では受け入れられなかったはみ出し者ばかりだ。
通り一遍の捉え方をすると、迫害されているもの達への深い愛情、などという陳腐な表現が頭をかすめる。だが、そうなのだろうか。

ナウシカの物差しは、常軌を逸したところがある。世間の評価や評判には流されず、自分で見聞きし、体験したことで判断しようとする。
しかしそれは、良い面だけを言えば未知の希望を見出す光ともなるのだが、反面、ムラの共同体で暮らす人々にとっては、招かれざる客を呼ぶ鬼門ともなり得る危険なものなのだ。

迫害されているもの達「にも」優しい、のではない。常識や世間体というものに縛られていない、それらのもの達こそが、ナウシカには必要だったのではないだろうか。


自分自身が歳を重ねるごとに、登場人物の抱える事情にひとつ、またひとつと気づく。気づきが物語のピースに新たな光を当て、描かれなかったストーリーが、頭のなかに浮かびあがる。
読みかえすたびに新たな発見を感じる作品。


■古谷実作品



どちらも全4巻完結。まとめて大人買いするなら↓が安くなっている。
僕といっしょ [少年向け:コミックセット]
サルチネス コミック 全4巻完結セット (ヤングマガジンコミックス)

『僕といっしょ』は、母親が死に、義理の父から捨てられた中学生と小学生兄弟の家出話。『サルチネス』は、引きこもりの中年男性がある出来事をきっかけに社会と接していこうとする話。
これらの作品は共通点が非常に多いので、以下のレビューは両者を読んでの感想をまとめたものになっている。


どちらも、主人公が非常に癖のある人物だ。
妙にプライドが高く、尊大で、理屈屋で、他人の気持ちがわからないうえに自分勝手。そんな困った人達。
自分で構築した独自の論理に則って生きているので、人の話を聞かない傲慢な人物という扱いを受けている。

たまたまかもしれないが、主人公のこうした部分は、アスペルガー症候群(AS)の当事者に対して定型発達(発達障害ではない、いわゆる普通の人)の人達が抱く印象と重なる。
ASの特性が濃い筆者自身もこれらの主人公の言動を見て笑うのだけど、ふと、「そうか、おれ自身も周囲の人にこう思われているのかもしれないな」と思うことがある。

主人公の話をよくよく聞いてみると、彼らなりの筋道だった理屈がある。ギャグ漫画の文法でオーバーに表現された部分はともかくとして、感情のフィルターを取っ払って考えればそこまで的外れなものではないように思うのだけど、どうなんだろう。所詮ASの特性の強い筆者の都合の良い解釈に過ぎないのだろうか。
だが定型発達である他の登場人物からすると、感情を抜きにしたその論理は簡単に飲み込めるものではないようだ。
そうして主人公達の理屈は、ほとんど理解されることはないのだった。

そんな彼らを、理解できないながらも見守る人達もいる。
肉親や、まっとうな枠からはみ出てしまった人達だ。

主人公の彼ら自身も見守ってくれる肉親への愛情を非常に強く持っていて、行動論理はそれを起点として行われている。
しかし主人公の表す「愛情」は、定型発達者の考える愛情とはかけ離れたものになってしまう。彼らに気に入られた人々は、そのあまりの熱量と、相手の都合を考えない押し付けがましさについ反発することになる。

他人の気持ちがわからない彼らは、自分の気持ちを素直に伝えることができない。いや、素直すぎて敬遠されてしまうのだ。どちらにしろ、定型発達から見れば“間違った伝え方”ということになる。
愛情に正しいも間違いもないかもしれない。だが、受け取るほうが負担に感じる行為は、それが善意から為されるものであっても、ともすると迷惑なものだ。

それは、ストーカーや、励ますつもりがパワハラとなる事例を考えれば、容易に理解できそうに思える。
作品からは、彼らなりの正義感やモラルを感じる描写も出てくる。彼らだってきっと、ニュースや新聞で第三者目線で見聞きすれば、「そういうことはよくない!」と憤るはずだろう。
しかし、当事者となって、いざその現場に出食わすと、そうしたことはすっぽりと頭から抜け落ちてしまっている。そうして目の前の人を厳しく叱責したりしている。
彼らは応用がまるでできない。目の前の出来事に当てはめられないのだった。

こうした人物が社会に溶け込んで暮らしていくのは難しい。
彼らがアスペルガー症候群(AS)やADHDなどの発達障害を抱えているかはわからないが、ASの特性が強い筆者からすると、「自分の言葉が伝わらないもどかしさ」に共感してしまうのだ。
しかしそれが教訓とはならないところが皮肉だ。


『サルチネス』は『僕といっしょ』の後日談ともスピンオフとも読めるので、先に『僕といっしょ』から読んだほうが、きっと楽しい。
両者が描かれた時期は14年ほど離れているので、古谷実の考えが変わったところ、変わらないところを見比べてほくそ笑むのもおもしろい。


■松本大洋作品


鉄コン筋クリート 全3巻完結 (Big spirits comics special) [マーケットプレイスコミックセット]
まとめ買いならこちらから安く購入できる。

野良猫のような暮らしで街を闊歩する子供達を描いたSF作品。今で言えばストリートチルドレン。いや、今の日本にはそういう子供はいないか。
主人公達の明るさと強さのおかげか、悲壮感はあまり感じない。

主人公コンビの片割れの「シロ」は、自分の世界に閉じこもりがちな少年。彼の頭のなかには、彼だけが見ることのできる豊かな世界が広がっている。

昭和の時代には、「野良猫が自由に暮らしている町は治安が良い、人が優しい」などと言われることがあった。今では事情も変わり、単純にそうとも言えなくなった部分もある。だけど、そんな時代も確かにあったのだ。
この物語の「ネコ」達も、街の景色が移り変わるなかで空気の変化を感じずにはいられない。

そうしたなかでの彼らの強さ、たくましさを追った作品。



Sunny コミック 全6巻完結セット (IKKI COMIX)
まとめ買いならこちらがお得。

『Sunny』は親のいない子供の支援施設の話。上手に社会に溶け込んでいるようにみえる子もいるし、明らかに知的障害を持った子もいる。
問題なく日常生活を送っているようにみえる子でも、心のなかに凸凹とした未開の原野のような風景を持っていたりするものだ。

『鉄コン筋クリート』とはうって変わって、現実感のある静かな筆致で描かれる日常が胸に沁み入ってくる。
子供ならではの不器用さと、子供だから許されること。子供だからこそ許されないこと。そうした世界が淡々と描写されている。

●松本大洋 (1/3) - コミックナタリー Power Push
こちらは「Sunny」連載開始時に行われた対談。無料ですべて読めるので、先にこちらで雰囲気を味わうのもいいかもしれない。



誰にでも敬語で話し、他人とのコミュニケーションに問題を抱えた少年が主人公。自分だけの世界から、少しずつ世間や他人と関わろうとする姿が描かれている。

子供だから見えること。大人になったら見えなくなるもの。幼い頃に見ると言われるイマジナリーフレンドの例を出すまでもなく、そうした世界は誰もが持っていたものかもしれない。
大人の目には見えないものが、彼らには確かに見えている。そうした世界の豊穣さを描いた漫画。



ピンポン コミック 全5巻完結セット (Big spirits comics special) [マーケットプレイス コミックセット]
まとめ買いならこちらがお得。

人並み外れて活発で授業中でも静かにできない少年と、仏頂面で感情をうまく表現できない少年が主人公。
他にも対人関係に問題を抱える人物が出てくる。

彼らはそれぞれに理解者を得て、または理解者を得られないままに自分の道を進む。向かう場所もわからないままに、やみくもに進む。

物語の視点は、彼らがすべてを注ぎ込む卓球に焦点が置かれている。そのため、登場人物達の特性も、個性の範疇に収まっている。
自信過剰で青臭くて、あんなに何もかもを投げ打って一つのことに集中できるのは、あの年頃だけかもしれない。
暑苦しいほどのエネルギーを感じる作品。

余談になるが、アスペルガー症候群(AS)の特徴として「スポーツや運動が苦手」とされることがある。これは、あくまでそういう人も多い、という傾向の話で、すべてのASが運動を苦手としているわけではないようだ。
ASも幾通りかのタイプに分かれているし、人によって発達障害度の軽重にも違いがある。なので、運動が得意なアスペルガー症候群も存在する。

ただ、一般的にASは他人との協力が難しいので(本人が望んでもチームメイトから敬遠されることが多い)、チーム球技などは不適格な場合が多いかもしれない。そういう意味では個人競技のほうが相性が良いようだ。

他にも●松本大洋作品 - Amazon.co.jpには「人間性に問題を抱えているが、すごい能力を持っている」キャラクターが多く描かれる。
明言はされていないが、こうした特徴はASを含む自閉症スペクトラム、サヴァン症候群などの発達障害を思わせる部分も多い。

また、松本大洋のなかには「親」というものがないらしい。親子の情愛、家族の親密さといったものは極力排除されている。意識して排除しているというより、すっぽり抜け落ちている、という感じ。
花男 - Amazon.co.jp」のように親子関係を描いた作品もあるのだが、むしろいびつな部分が際立っていて、世間一般で言うところの親子関係とは隔たりを感じる。
著者個人と作品とは独立して語られるべきだとは思うが、これは著者の特徴として挙げてもよい部分だろう。

●TVアニメ「ピンポン」特集、松本大洋×湯浅政明監督対談 (1/3) - コミックナタリー Power Push
こちらはTVアニメ「ピンポン」開始時に行われた対談。無料ですべて読めるので、先にこちらを読むのもいいかもしれない。


■花輪和一作品


モデルガンマニアが高じて銃刀法違反容疑で逮捕された主人公の、その後の留置所、刑務所生活を綴ったエッセイ作品。

花輪和一の作風を知らない人には断っておかなければならないが、元々花輪は、初期はエログロかつ猟奇的な作品から、のちに平安~室町時代あたりの時代劇をベースに不思議体験や妖怪、ドロドロに絡み合う人間の深層心理を描いた作品が多い。
そのため、この『刑務所の中』のような、通勤時間の空き時間にさらっと読めるような軽いエッセイ漫画のほうが特殊なのだ。
つまり、この作品でファンになり、他の花輪和一作品を読んだとしても、期待していたようなエッセイ漫画に巡り合うことはない、というのは覚えておいたほうがいいかもしれない。

登場するキャラクターに“変わった人”が多い。普通の人を普通に描いても漫画にはならないので、当然といえば当然かもしれない。
それらの描き方も突飛なものとなっていて、花輪和一独特の視点を感じる。

この作品の主人公である”花輪さん”の性格も、うまく社会に溶け込むには少し歪なようだ。
孤独がまったく苦にならない、人付き合いが嫌で嫌で仕方がない、異常なこだわりを見せる描線、ガンマニアなどの、のめり込み気質、毎日の献立を詳細に書き写す几帳面さ、過集中、規則やルール・法律より自分の興味を優先するなど。

これらの点には、自閉症スペクトラムの特性を強く持つ筆者からすると、共感を覚えるところが多い。

“花輪さん”は様々な鬱屈を抱えた人なのだろうけど、そこからアウトプットされる風景はなぜだかほのぼのとしていて、優しい。それこそ、ほんわり真綿でくるまれているような、おとぎ話のような安心感がある。

刑務所関連の話をネットや書籍やテレビで見聞きする限り、塀の中というものは、花輪和一の視点から見たようなのんびりとしたものではないように感じる。
しかし、『刑務所の中』からは、自分もいつかは行ってみたいと思ってしまうような、旅行記を読んでいるような暖かみを感じる。



原作を忠実に再現した映画版『刑務所の中』も見応えがある。
崔洋一監督は、どれだけ原作に沿って映像を作るかという部分に注力したようで、俳優のキャスティングも違和感を感じないものになっていて、見事に漫画の「あの世界」に引っ張り込まれる。
山崎努の演技も“花輪さん”のとぼけた雰囲気をうまく醸し出している。

映画オリジナル要素である「ガンマニアの集会」は特に見所。オタク同士の真剣さは、部外者から見れば滑稽に見えるという物悲しさ。その馬鹿馬鹿しさ、くだらなさ。
筆者自身には拳銃や鉄砲への思い入れはないのだけど、そこまでのめり込めるものがあり、仲間と共に楽しむその姿にうらやましさを感じてしまう。


●刑務所の前 コミック 1-3巻セット (ビッグコミックススペシャル)
全3巻まとめてセットは品薄状態。見つかればラッキー。


『刑務所の前』は全3巻で語られる、『刑務所の中』に至る経緯を描いた作品。…のはずなのだが、著者の意識はあちこちに飛びまくり、なぜだか著者お得意の平安時代劇と不思議世界、現代劇を自由自在に行ったり来たり。○○中の夢のなかかと思しき幻想物語を味わえる。
シラフでは読めない作品。

大評判となり映画化までされた『刑務所の中』の続編ということで手に取った人も多かったようだが、あまりの作風の違いに戸惑ったという意見を見かける。
しかし、どちらかというと花輪和一は元々がそういう人であって、『刑務所の中』のほうが特別なのだ。

『刑務所の中』が、どちらかというときっちり真面目なエッセイという内容だったのに対し、こちらの『刑務所の前』は、自由にのびのびと描いている様子がうかがえる。
あっちの世界、こっちの世界と気ままに行き来していて、ブラックな冗談まで飛び出る。そうしたところに著者のリラックスというか、余裕を感じて、「おかえりなさい」という気持ちになる。
『刑務所の中』と読み比べると、やはりあの頃はまだ緊張が解けてはいなかったのだろうという気がする。




天水 完全版 (講談社漫画文庫)
上下巻をまとめた文庫版はこちら。

バイト先の休憩時間に読んでいて、「気持ち悪い漫画を読んでいる変な奴」という筆者への評価を確固たるものにしてくれた思い出深い漫画。
余談だが、銃刀法違反容疑で花輪が逮捕されたのは、本作品の連載中であったそうだ。

上巻の半分ほどまでは、小学生に読ませても違和感なく楽しんでくれそうな、「少女・棗(なつめ)」と「河童さん」の絵本のような妖怪物語。しかし上巻の後半からは、人間の負の感情を煮詰めたようなおどろおどろしい世界になっていく。
下巻は、母をたずねて三千里ならぬ地獄めぐりをする話。gato系のトラウマなグロ描写もあるので、読む場合は心をやられないように気をつけて。

※「gato」とは日本のネットスラングで、猫を虐待する動画やそれを扱うコンテンツの総称。猫好き、動物好きにとっては不愉快この上ない「検索してはいけない言葉」。元々はスペイン・ポルトガル語圏における「雄猫」という意味。

グロ描写に目を引かれがちだが、作品のテーマは「近しい人に理解してもらえない苦しさ」を吐き出すかのような内容。
発達障害の特性があると、定型発達(発達障害ではない人)の身近な人に理解してもらえずに苦しい思いをすることがある。もちろん定型発達の人同士でもそうした思いを味わうことがあると思う。しかし、発達障害ゆえの何もかもがさっぱり伝わらないというもどかしさは、それこそ妖怪や地獄の怪物相手に話しているとでも考えなければ納得できないほどの困難さを感じるのだ。それは寂しい、悲しいという控えめな表現では物足りない。

いや、人口に対して約1%ほどの比率というアスペルガー症候群(AS)の割合を考えると、こちらのほうこそ怪物なんだろう。


■安達哲作品


バカ姉弟 1~最新巻(KCDX ) [マーケットプレイス コミックセット] Amazonの全巻セットは高騰しているので、ひとつずつ買った方が安いかもしれない。
アニメ版は表現の自粛があり、『●ご姉弟物語 - Amazon.co.jp』とタイトルを変えて放送された。

『バカ姉弟(ばかきょうだい)』は、放任主義の親から教育方針として過剰なまでに自由を許された子供達の話。町の人からも好かれ、誰からも一目置かれているので、町ぐるみでみんなの子供として育てられている。

姉弟は就学前の年齢なのだが、この年頃の子供にしては、見ているほうが不安になるほど大人の保護を必要としていない。感情の動きも他の人達とは違うようだ。
同級生の子供達とは馴染めず、大人達とも必要がなければ交わらないクールな面がある。
自分達だけの世界を作り、特異な才能を見せることがある。

普通とは違う姉弟達を見守る大人達は、みんな優しい。過保護にはせず、かといって邪険にもされず、自由に放牧されている。やさしいせかい。

第一部完結から約10年。2016/11/4に続編が刊行された。
総天然色 バカ姉弟(1) (KCデラックス ヤングマガジン)


■中田春彌作品


『Levius』の主人公の「レビウス」は、時間や日付に人並み外れた細かなこだわりを持ち、年齢に不釣合いな難解な哲学書を読み、人付き合いを避けるという気難しい性格。
身体を機械で改造して戦う「機関拳闘」という競技の選手。

作者の中田春彌(なかた・はるひさ)の描く線は非常に流麗で、ひとコマひとコマが画集のような書き込み。かといって息苦しさを感じるような密度ではなく、ラフなデッサンのような余白もあるその線描からは、蜃気楼のような淡さと、夢の世界のような奇妙なリアリティと、静物デッサンのような醒めた視点を感じる。

『Levius』の物語に入り込むというよりは、すぅーっと見える幻のような世界観。
バンドデシネやスチームパンクの影響も色濃くうかがえる作風。

他の漫画家と比べるのは失礼かもしれないが、気合の入った時の冨樫義博の線に近い味わいを感じる。ラフな粗さと迷いのないスパッとした切れ味のいい線描画。ずっと眺めていたくなる。

主人公の特性もさることながら、聴覚優位(聴覚言語優位型)の線優位性タイプのアスペルガー症候群(AS)にとっては、舌なめずりしたくなるような線画を味わえるのが嬉しい。


■沖田×華(おきたばっか)作品

沖田×華はアスペルガー症候群を公表している漫画家。
沖田の特性は、筆者とは違うタイプのアスペルガー症候群(AS)のようだ。

このエントリーではこれまで、「聴覚優位(聴覚言語優位型)の線優位性AS」である筆者が共感を覚えた漫画作品を選んで取り上げてきたが、逆に、ASを公言していたとしても、沖田のような視覚優位ASの作品にはシンパシーを感じない例として挙げてみた。

沖田×華は上記の『毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で』にて、「視覚優位(視覚映像優位型)の色優位性タイプ」のASと思われる特徴を告白している。
何でも、「青色のもの」がとにかく好きなのだそうで、その中でも「サファイアブルー」にしか興味がないとのこと。

このような微細な色調の違いまで感じる色へのこだわりは、「視覚優位(視覚映像優位型)の色優位性」のものに近い。「聴覚優位(聴覚言語優位型)の線優位性」タイプのASである筆者とはまるで違う。
そのため、個人的にはASとしてのシンパシーを感じることはない。

また、沖田自身は作品のなかで、ASの他に、沖田自身が子供時代に診断されたADHDやLD、視覚優位や聴覚優位の特性を混同して描いており、誤解を生みかねない表現があるので注意が必要だ。
ここら辺は、細かい定義を考えずにイメージで捉える視覚優位の適当さが出たのだろう。

そういう意味でも、沖田×華作品はアスペルガー症候群(AS)の参考書籍として読むのではなく、「おっちょこちょいのエッセイ漫画」として楽しく読んだほうがよさそうだ。

視覚優位と聴覚優位とは、簡単に説明すると、以下の違いがある。

●視覚優位
  • 目から見たもので考える人。
  • どんなことでも映像や絵や写真を思い浮かべて考える。
  • 即席のショートムービーを脳内で再生する人もいる。
  • まるで幽体離脱したかのように俯瞰・鳥瞰図が見える人もいる。オカルトではなく、脳内で具体的に強く映像をイメージできるため。
  • 色や色調、立体感覚、全体把握が得意。
  • 建築設計や空間デザイナー、芸術表現やインテリア関係に向く。
  • デメリットとしては、細かな色や造形の違いが許せない、説明書などの硬い文章が頭に入らない、会話の理解がおぼつかないという面がある。
  • 第一に視覚で考えるので、文章表現や読書、口頭や文字による学習、学校のお勉強、論理的思考が求められること、機械類の操作は苦手。知的な問題があるという訳ではなく、言葉をすべて映像化してしまい、変換作業でリソースを使い切ってしてしまうから。
  • 口頭や文字による学習が苦手なので、LD(学習障害)やディスレクシア(読字障害)を併発する場合がある。このため、知能面の問題がないにも関わらずテスト等を苦手とする場合が多い。
  • 機械の「操作」は苦手でも、図面から映像化できるので、設計や組み立ては得意な場合がある。
  • 何でもかんでも脳内フィルターで映像化するので、複雑な会話、複数人との会話が苦手。映像化が追いつかなくなって理解が遅くなるため。

●聴覚優位
  • 耳から聴くものや言葉で考える人。
  • 音の他に文章の読み書き、言葉遊びなどの言語情報を好む。
  • 視覚的には局所優位で線優位性の傾向が強く、奥行きや細かな色調の違いがよくわからないという欠点がある。
  • 部分把握が得意な反面、全体把握は苦手。局所優位のため、細かいところに異常にこだわる面がある。物事を全体で見ることが苦手。
  • くっきりとした輪郭線、文様や紋章などのシンボル図形、奇抜な色、ポスターカラーのようなベタッとした平面表現を好む。
  • 順序良くこなす「継次処理」が得意なので、「読書・学習・規則・ルール・論理」に関することは比較的よくできる。
  • 自分の興味を優先させるために、「学習」は得意でも学校の「勉強」は苦手な場合がある。周囲とのコミュニケーションが強く求められる学校という場に苦手意識があると、その傾向はさらに強くなる。
  • 自分のなかで決まったルールを乱されること、乱す人が許せない。
  • 理論的かつ理屈屋。
  • 整然とした説明書などのお硬い文章が好きなので、機械の操作等は得意な場合が多い。
  • 対人コミュニケーションが要らず、ひとりで黙々とこなすような作業を好む。
  • かといってベルトコンベアー式の単調作業をさせると、思考が飛ぶのでミスが多発する。
  • 論理的な整理が必要な、調べ物系の仕事が向いている
  • デメリットとして、聴覚過敏のせいで睡眠時には耳栓必須だったりする。
  • すべての音や音声が耳に入ってしまうので、雑踏や映画館、複数人との飲み会やパーティー形式も苦手。
  • 言葉のあいまいさが許せず、不正確な表現や正式名称以外の呼び方を嫌ったりする。
  • 女子のお喋りにあるような主語の抜けた会話が苦手。
  • 視覚面では細かな色の違いがわからないために奥行きがあまり把握できない。
  • 人の顔などが覚えられない「相貌失認」を引き起こすことも多い。
  • 顔が覚えられないので、表情や仕種で空気や雰囲気、相手の感情を読むことができない。

聴覚優位のほうがより詳細なのは、筆者自身が聴覚優位(聴覚言語優位型)の線優位性タイプだから。
また、沖田×華作品の表現と矛盾点があるが、それは沖田がADHDその他の発達障害と混同したまま作品に描いているため。

聴覚優位の最後で相貌失認について書いたが、筆者としては、「ASは空気が読めない」と言われるのはこれによるところも大きいと思う。
人の顔が覚えられないということは、表情の変化に気づけない、ということにつながる。そのため、ひとつひとつの感情を言葉として出してもらわないと理解できないのだ。

漫画やアニメ、映画や小説などは、この部分がうまく言語化、記号化されており、聴覚優位ASでも感情を理解できる。しかし、現実世界でそんな面倒なことをしてくれる人はいない。
AS以外の人でも聴覚優位で同じような傾向のある人はいるのだろうが、ASは特に他の特徴(欠点)と合わせて、「空気や雰囲気が読めないダメな奴」という印象が付きやすいのではないだろうか。

また、ネット上に有名人の画像にて行う「相貌失認テスト」というものがあるけど、あれは筆者の場合には参考にならない。あくまで「立体物としての奥行きが把握できないから、現実での個体認識ができない」ということなのだ。
平面の二次元静止画像は輪郭が強調されるので、むしろ得意な範囲になる。

これらの違いがあるため、沖田×華に対しては「アスペルガー漫画」としては共感しないのだ。
でも、西原理恵子的な雑記漫画として読むならばおもしろい。

余談として、西原理恵子と仲のいい「ゲッツ板谷」というライターがいて、彼が「沖田×華」という筆名の名付け親。

以下から他の著作が試し読みできる。
悲惨な「ちびまる子ちゃん」という感じ。
●沖田×華<沖田×華の蜃気楼家族> - 幻冬舎plus


■「視覚優位」「聴覚優位」という考え方

沖田×華の項で、以下の2つの考え方を紹介した。

「視覚優位(視覚映像優位型)の色優位性」
「聴覚優位(聴覚言語優位型)の線優位性」

この「視覚優位」「聴覚優位」という考え方は、発達障害の症状というわけではなく、誰でも傾向として持っているものなんだそうだ。
定型発達(発達障害ではない人)の人達でも、どちらか得意な考え方があることが多いとのこと。発達障害の人はその傾向が極端に出るので、より際立ちやすくなる、という話。


「視覚優位」「聴覚優位」という考え方を深く知りたいかたは、こちらの書籍がオススメ。
これらの考え方を知らしめたのは、岡南の著作によるこの本の影響が大きいからだ。漫画ではないのでエントリーの趣旨とは外れるが、ここに簡単に紹介する。

内容としては「アントニオ・ガウディ」と「ルイス・キャロル」を中心に、これまで残された資料や関連書籍から、彼らの生涯と功績を追ったもの。特に、発達障害を連想されるものを中心に解説してある。
これまでの関連書籍の研究をを発達障害の目線でリライトしたもの、とも言えるかもしれない。

しかし、岡自身は視覚優位の映像思考の持ち主なので、文章が苦手なのだ(著者本人も、書籍内で苦労した旨を語っている)。聴覚優位ASの筆者からすると、岡の文章はまだるっこしく、似たような話を何度も繰り返され、焦点がぶれぶれになっているように感じて、読み通すのに忍耐が必要だった。
おまけに、岡と同じ視覚優位のアントニオ・ガウディについての話が69~199ページまで続くので、聴覚優位者にとっては、読みづらい上に共感できない話がひたすら続くことになる。

聴覚優位者ならば、同じ聴覚優位であるルイス・キャロルについて書かれた「第三章 ルイス・キャロルが生きた「不思議の国」(201~288ページ)」から読むほうが興味を惹かれるはずだ。
もっとも「継次処理」の特性が強い人にとっては、読み飛ばしという行為そのものにもストレスを感じることなので、どういう読み方をするかはご自身の特性とご相談あれ。


「視覚優位」「聴覚優位」について無料で読めるウェブサイトでは、以下のページがオススメ。
3543文字とそんなに長くないので、さらっと概要を理解するにはちょうどいい。

●真っ白な闇を歩き続けて~ある発達障害者の手記

自分がどちらの傾向に近いかを知っておくことで、物事を把握する際の効率に大きく違いが出てくる。
自分が勉強や学習する際にも影響があるし、認知の仕方が違う他人に物事を伝える時にも、これを意識することで伝わりやすくなるのを感じた。特に子供への影響は大きいようだ。

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兼業農家ツベル

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PC(パソコン)ときどきゲーム。ニュースも少々。

平成28年熊本地震に被災しました。今は元気です。

最近自分がアスペルガー症候群(AS)の特性が強いことがわかりました。

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