ちホ騎-7:ちからじまん/ホビット/騎兵
変愚蛮怒日記 - Ver 2.1.4 - 六代目
- 恐ろしい死の幻が目に浮かび、気絶しそうになった! -
溢れる高級品。いくつもの特別製。敷き詰められた罠。襲いかかるユニーク。そう、ここはVault。希望と絶望が織りなす場所。
古代万色ドラゴンにまたがるホビットの運命は…。
彼は疲労困憊だった。日の光が届かない鉄獄と呼ばれる場所では、すでに時間の感覚も失われていた。持ち込んだ魔法道具も使用回数がほとんど残っておらず、自らの特殊能力である”食料生成”と、愛馬である古代万色ドラゴンの力がかろうじて彼の命をつないでいた。
―――ずぶり。
西方国のマン・ゴーシュが長老岩の隙間にねじ込まれる。握り手を保護するように湾曲したプレートの付いたこの武器は、騎乗した位置からは攻撃しにくい。それでもこの短剣は、ここに来てから数えきれないほどのモンスターを葬ってきた。そしてまた、一体のモンスターが土塊と化した。だが、顔を上げるとそこには、分裂した長老岩の落ち窪んだ目がこちらを見ていた。
彼の左手が手綱をぎゅうと締め付ける。咆哮とともに古代万色ドラゴンの毒のブレスが吐き出された。長老岩には耐性があるが、古代万色ドラゴンのブレスはそれを上回る威力があった。長老岩の表面では、腐りかけの獣の内蔵を思わせる暗緑色の毒液が粒子状の煙となり、着実にモンスターの体力を奪っていた。
隙を突いてVaultの隙間から潜り込みアイテムを奪い取る。もう持ちきれない。インベントリ容量の限界だった。休憩を兼ねてアイテムの整理を行う。整理といっても何もない場所だ。Vaultの外側、塀に囲まれた場所へでも投げ出すより他にない。
インベントリに収まりきれないアイテムを拾うためだった。どうせなら複数のアイテムを持ってこれるようにと容量の半分近くを乱暴に投げ落とした。これが予想外の効果を産んだ。
+8だった乗馬加速が+12まで上がったのだ。彼の愛馬は幾千もの戦いをくぐり抜けてきた頑強な古代万色ドラゴンであったが、荷物の重量がドラゴン本来の敏捷さを妨げていたのだった。
+4の加速は大きかった。
長老岩の射程を見切り、攻撃をすれすれでかわしつつ吐き出されるブレス。弱ったところで急所に差し込まれるマン・ゴーシュ。彼らの動きは完全にトップギアに入っていた。武器をどう振ろうとか、ドラゴンをどう操るかというような意識はなかった。リズムに乗って決まったパターンと化したルーティンに身を任せればよかった。あとには長老岩を構成していた無機質な塊がぼろぼろと崩れているばかりだった。
時折出てくるユニークも彼らの脅威とはならなかった。温存していた矢に加え、拾った高級品の矢を離れた位置から撃ち込まれれば立っていられるモンスターはいなかった。
少しずつVaultの小部屋に入れるようになっていく。アイテムを持ちだしては簡易鑑定を行い、まとめてVaultの外へ置く。
ようやく攻略の見通しがついた。彼がそう考えた矢先だった。彼のまたがる古代万色ドラゴンが、内なるエネルギーを放出し始めた。
炎と氷とスパーク。熱い!痛い!冷たい!
その強大なエネルギーは、ただそこに在るだけで周囲の者どもを焼かずにはおれない。万色ワイアームの誕生だった。
かつてドラゴンであったワイアームは忠誠心を忘れたわけではなかった。ただただ膨大な力を持っている。それだけだった。ドラゴンよりはるか上位とされる古代の竜の力が圧倒的なだけだった。
人が息を吐くように火を吐き、汗をかくように冷気を垂らし、体温のようにスパークのオーラをまとっているのだった。それの前では主人であるホビットですら例外ではなく、為す術もなく体を焼かれていく。
ホビットは自分のうかつさを呪った。父の忠告に耳を貸さなかった自分を憎んだ。師の教えをないがしろにした時間を悔いた。
曰く、強大な力を持つモンスターの中にはオーラを持つものがあるということ。それに乗るためには免疫をつけなければ命を削られるということ。
身を焼かれて反射的にペットから飛び降りたホビットの姿を、万色ワイアームの深く澄んだ瞳が見ていた。
■前回まで
鉄獄23階- 恐ろしい死の幻が目に浮かび、気絶しそうになった! -
溢れる高級品。いくつもの特別製。敷き詰められた罠。襲いかかるユニーク。そう、ここはVault。希望と絶望が織りなす場所。
古代万色ドラゴンにまたがるホビットの運命は…。
■この先生きのこれるかもしれない
あれからどれだけの時間が経ったのか。彼は疲労困憊だった。日の光が届かない鉄獄と呼ばれる場所では、すでに時間の感覚も失われていた。持ち込んだ魔法道具も使用回数がほとんど残っておらず、自らの特殊能力である”食料生成”と、愛馬である古代万色ドラゴンの力がかろうじて彼の命をつないでいた。
―――ずぶり。
西方国のマン・ゴーシュが長老岩の隙間にねじ込まれる。握り手を保護するように湾曲したプレートの付いたこの武器は、騎乗した位置からは攻撃しにくい。それでもこの短剣は、ここに来てから数えきれないほどのモンスターを葬ってきた。そしてまた、一体のモンスターが土塊と化した。だが、顔を上げるとそこには、分裂した長老岩の落ち窪んだ目がこちらを見ていた。
彼の左手が手綱をぎゅうと締め付ける。咆哮とともに古代万色ドラゴンの毒のブレスが吐き出された。長老岩には耐性があるが、古代万色ドラゴンのブレスはそれを上回る威力があった。長老岩の表面では、腐りかけの獣の内蔵を思わせる暗緑色の毒液が粒子状の煙となり、着実にモンスターの体力を奪っていた。
隙を突いてVaultの隙間から潜り込みアイテムを奪い取る。もう持ちきれない。インベントリ容量の限界だった。休憩を兼ねてアイテムの整理を行う。整理といっても何もない場所だ。Vaultの外側、塀に囲まれた場所へでも投げ出すより他にない。
インベントリに収まりきれないアイテムを拾うためだった。どうせなら複数のアイテムを持ってこれるようにと容量の半分近くを乱暴に投げ落とした。これが予想外の効果を産んだ。
+8だった乗馬加速が+12まで上がったのだ。彼の愛馬は幾千もの戦いをくぐり抜けてきた頑強な古代万色ドラゴンであったが、荷物の重量がドラゴン本来の敏捷さを妨げていたのだった。
+4の加速は大きかった。
長老岩の射程を見切り、攻撃をすれすれでかわしつつ吐き出されるブレス。弱ったところで急所に差し込まれるマン・ゴーシュ。彼らの動きは完全にトップギアに入っていた。武器をどう振ろうとか、ドラゴンをどう操るかというような意識はなかった。リズムに乗って決まったパターンと化したルーティンに身を任せればよかった。あとには長老岩を構成していた無機質な塊がぼろぼろと崩れているばかりだった。
時折出てくるユニークも彼らの脅威とはならなかった。温存していた矢に加え、拾った高級品の矢を離れた位置から撃ち込まれれば立っていられるモンスターはいなかった。
少しずつVaultの小部屋に入れるようになっていく。アイテムを持ちだしては簡易鑑定を行い、まとめてVaultの外へ置く。
ようやく攻略の見通しがついた。彼がそう考えた矢先だった。彼のまたがる古代万色ドラゴンが、内なるエネルギーを放出し始めた。
炎と氷とスパーク。熱い!痛い!冷たい!
その強大なエネルギーは、ただそこに在るだけで周囲の者どもを焼かずにはおれない。万色ワイアームの誕生だった。
かつてドラゴンであったワイアームは忠誠心を忘れたわけではなかった。ただただ膨大な力を持っている。それだけだった。ドラゴンよりはるか上位とされる古代の竜の力が圧倒的なだけだった。
人が息を吐くように火を吐き、汗をかくように冷気を垂らし、体温のようにスパークのオーラをまとっているのだった。それの前では主人であるホビットですら例外ではなく、為す術もなく体を焼かれていく。
ホビットは自分のうかつさを呪った。父の忠告に耳を貸さなかった自分を憎んだ。師の教えをないがしろにした時間を悔いた。
曰く、強大な力を持つモンスターの中にはオーラを持つものがあるということ。それに乗るためには免疫をつけなければ命を削られるということ。
身を焼かれて反射的にペットから飛び降りたホビットの姿を、万色ワイアームの深く澄んだ瞳が見ていた。
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