読んだ本 - ホームレス大図鑑

ホームレス大図鑑
ホームレス大図鑑
posted with amazlet at 13.10.09
村田 らむ
竹書房
売り上げランキング: 262,937


 村田らむのホームレスの本はいくつかあるが、すぐに発禁回収になってしまう。その結果手に入れづらくなり、高騰してしまっている。この本もその中のひとつで、Amazonでは定価1800円のこの本が、5千円近くの値が付けられている。
 内容はタイトル通りひたすらホームレスについて語られたものだ。ホームレスをジャンル分けしたり残飯ばかりの食生活を紹介されていたりとある程度の予想がつく内容ではある。ただし、著者はそれらの取材の際にひとりひとりのホームレスに話しかけ、小さな虫のうようよいる部屋に泊まり、怒鳴られ、追い払われ、時には酒を酌み交わし、またある時はいきなり刃物を突きつけられるという香ばしい目に遭いながら体当たりの取材を続ける。絶対にやりたくない仕事である。こんな体験を乗り越え出版までこぎつけた著者にはつくづく頭がさがる。

 10万円でホームレスの夢を叶えようという企画があった。これがとにかく不愉快になる。ホームレスに親切にしたところで得るものは何もないということを知らしめてくれる。路上生活をしている人たちからしたら、”こっち側”からの親切はおせっかい以外の何物でもないのだと思い知らされる。こっちの懐が痛むわけではないし、こんな気分になること自体上から目線になっているのだろうが、それでも「せっかくしてやってるのにその態度はなんだ」と考えてしまう。
 10万あったら風俗に連れて行け、などとのたまうホームレスを片っ端から取り除き、この企画に選ばれたホームレス氏の夢は、故郷に帰りたいというものだった。テレビでやればいかにもお涙頂戴ものが作れそうな手堅い企画なんじゃないの、と思わせられる。だが、もちろんそんな風にはいかない。
 しょっぱなからトラブル続きの旅は、ホームレス氏の親族の明らかな拒絶で誰も喜ばない終わりを迎える。無理に建設的な部分を見出そうとすれば、ホームレス氏に新しい服が手に入ったこと、ホームレス氏とその親族がお互いに生存確認が取れたことだろうか。最後にホームレス氏の親族が著者に向かって「ありがと」と呟く場面では、喉の奥にいつまでも飲み込めないものが詰まった気がしてますます後味が悪くなった。

 ホームレスだからといって、まったく働かないわけにはいかない。食べなくてはならないし、生きていればなにがしかのカネが必要になる。
 よく選ばれる仕事として、ダンボール集め/空き缶集め/本屋さん/日雇い/露店/並び屋/特別清掃/物乞い/拾い屋/銀杏集めなどが紹介されていた。これらはいくつかを除くと信じられないほど割に合わない仕事だ。詳細は控えるが、ふたつほど例を挙げると以下の様なものだ。

●ダンボール集め 相場:2~4円/kg
リヤカーいっぱいにダンボールを積んで数百キロにもなる重労働だが、それだけがんばっても数千円にしかならない。

●空き缶集め 相場:80~120円/kg
勝手にマンションなどから持って行くと怒られたりする。拾うだけではなく、潰したり仕分けたりと作業工程が多くて大変。時給にすると100円以下。


 正直言って、1/3強を読み進んだところで漂う空気にうんざりし、同じ写真が何度も使われ、似たような記述が続き、ダンボールハウスとブルーシートのテントの迷路に迷い込んだ気分さえしてさっさと終わらないかという心境だった。後半になるにつれ誤字脱字も増え、やっつけの校正者の集中力も切れたようだ。読みにくさも増し、内容は目新しさもなく、いよいよだらけてくる。ところが、最後の企画である「大阪・西成 無一文からの脱出!!」というたった31ページの部分が、今までの倦怠感をひっくり返すほどおもしろかったのだった。
 内容は、村田らむ氏が同地区で無一文状態から金を稼いで出て行くまで、という趣旨の体験記らしい。だが、とくに説明もなく始まるし、”無一文”と謳いながら企画開始直後にいきなりドヤ(労働者向けの格安宿)に泊まったり飯を喰ったりする金は持っていたりと適当な感じだ。
 ホームレスかその予備軍と、それらを取り仕切る怪しげな人たちばかりの場所で、外から来た村田氏は浮きまくる。手っ取り早く稼げるとふんだ肉体労働ですら雇ってもらえない。気分も落ち込み半ば諦めかけた時に村田氏が目にしたのが、「日払い可。高給保証」というスポーツ新聞の3行広告並みの、目にした瞬間ブラック確定の焼き鳥屋の張り紙だった。
 背に腹は代えられないとそこで働き始めると、案の定ブラックな職場。一日に20時間働いて時給換算100円程度という散々な場所だった。だが、雨風は防げるところで眠れるし、食事の心配もないので、路上で寝泊まりする人の多いこういう場所ではいい職場と言えるのかもしれない。
 しばらく働いたところで、同僚のひとりと相談の上逃亡計画を立てることになる。なんせ雇い主はその筋の方々。「辞めます」と正直に宣言したところではいそうですかと辞めさせてくれるとは思えない。とうとうある日それを実行に移すが…。
 後日談として語られる、共に逃亡計画を立てた同僚のその後が凄絶だ。
 元いた場所には当然いられないので、東京に出てくる。あてもないのでふらふらしていると違法商売をしている外人に世話になる。そのうち知り合いができ、紹介されてコピーブランドなどを売り始め…、と馳星周か大沢在昌のハードボイルド小説かと思うようなシノギ方だ。これだけ書くとホームレスと関係がなくなっているかのように思えるが、彼もまた路上で寝泊まりしていた立派な?ホームレスであり、そこからどう抜けだしたのかという話だ。それにしても、そんな抜け出し方をしなくてもと考えてしまうが、本人からすると案外自然な流れなのかもしれない。

 読み終わると、何もない退屈な日常がありがたいものに感じてきた。
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