猫の話

 顔見知りの猫がいる。もう一年以上の付き合いになるだろうか。薄汚れた雑種で、全身は黒で手足と顔の下の方だけ白いという変な模様だ。立派なモノをぶら下げたオスで、いつもメス猫の尻を追い掛け回している。
 ウチは住宅街の戸建の借家で、家の周りを猫がよく通るのだ。だが、おれの部屋の前で足を止めるのはこいつだけだ。
 決してほめられる所業ではないだろうが、ろくすっぽ人の出入りもない我が家にわざわざ訪ねてきてくれる客を邪険にもできず、来るたびに晩飯の残りやウインナーなどを投げてやっている。投げてやるとがつがつと食い、食い終わると毛繕いをはじめる。毛繕いをしながらごろんと横になり、そのままうたた寝することもある。そうして、五分から十五分ほどのんびりしたあと、どこへやらと行ってしまう。こいつはマーキングするので、家には入れてやらない。
 こいつは、いつもどこかしらを怪我している。多いのは顔の周りや手だ。縄張り争いなどで喧嘩をしているのかもしれない。
 一度、何を投げてやっても食べないほど弱っていたことがある。少し痩せて、どの食い物もちょっと匂いを嗅ぐだけで口にしようとしない。ああ、こいつはもう長くないのか、と思っていたが、その後元気になりまた食べるようになった。その時、またこの客が通い続けてくれるであろうことをうれしく思うと同時に、それほど弱った時でさえ遊びに来てくれたということが、おれをなんとも言えない気持ちにさせたのだった。
 こいつは懐くことがない。部屋の前でくつろいだりはするが、決して触れることを許そうとはしない。なでようと手を伸ばすと次の日ひどい爪痕に悩まされることになるし、手からなにか食べさせようとすると食い物といっしょに手まで食いちぎろうとする。毛繕いをしている時にそうっと触れると、感電したかのようにびくっとなり自慢の爪を繰り出すか飛びすさるのだった。
 野良猫のプライドだろうか。いや、どこぞのこどもにいじめられたと考えるほうが自然か。
 なぜかわからないが、おれの足の指が好きなようだ。部屋にあがるのは許していないが、部屋の入口に手をかけるのまでは許している。そんな時にその前に椅子にすわって足を組み、少し余所見をすると足の指に食いついてくる。もちろん痛いのだが、この痛みは中学生の頃家にいた仔猫が朝になると布団から出たおれの足を甘咬みして起こしてくれていたのを思い出す。あいつはどこに行ってしまったのだろう。やがて成猫になろうかという頃、前触れもなく帰ってこなくなった。尻尾の先が“コ”の時に曲がった変な形をしていたあいつ。そういえば、あいつとの出会いも当時の我が家に迷い込んできたあいつにウインナーを投げてやったのがきっかけだった。おれや家族が出かけると、てけてけとあとを追ってきていたあいつ。せめて楽に逝けたのならいい。
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